ミックス完全に理解した

秋M3の作業が完了しました。

今回はしばらくボンヤリ考えていたことが確信に変わったり色々気づきがあったので、熱量の高いうちに書き留めておきます。

自分の力量のことなので詳しい人に見られるのが大変恥ずかしいものとなっていますが、それもまた人生。

 

適当に作るとよくないことが起こる


昔の作り方は、今思い返せば"形無し"の一言に尽きました。

打ち込みをしつつ、小さすぎると思えば上げ、大きすぎると思えば下げる。

コンプの選び方もかなり適当で、その時の気分によって使い分けていました。
なんとなくRComp、刺せばいい音(?)になると信じて76、ヴォーカルだからオプトコンプ(せっかくIKから貰ったし)…といった具合。
ヴィンテージ系に関しては実機を触ったことがないので聞きかじった知識でチョイス。

 

さらに、パラメータへの理解が絶望的にありませんでした。
実際のところ、耳で納得して設定できていなかったのです。
そうすると、この楽器に対してレシオ4:1は甘いのか、やりすぎなのか、アタックはどうか、リダクションは…という決定が根拠に乏しいため、気になるたびに再調整することになります。

 

そんな感じだったので


入稿前には毎回自分のミックスに疑問を抱き続けていました。

気になった箇所を直してはまた別の箇所が悪くなり、タイムアップまで不安と戦い続ける、それは大変精神的にクるものでした。 

やっぱりスタジオのアウトボードが無いと自分が求める音にはなれないんじゃ〜と思ったこともありましたが、同人系作家などの情報もよくチェックしていましたし、所持している機材は大差ないことも分かっていたので、自分のミックスオペレーション(またはその上流)に問題があることが明白なのは救いでした。*1 

 

なんとかしたい


色々試行錯誤する中で、特に効果的だった手法を説明します。


1.基準となる本を1つだけ決めた

上に書いたことは今でこそ言語化できていますが、その時は何が問題かすらボンヤリとしていました。

そういった中で、やはり一度自分の中でスタンダードを築かねばならないのではないか、というところにある時思い至りました。自分よく気づいた。自分えらい。

 

雑誌やネットの情報は散発的で目的としては不適切だったので、やはりきちんとパッケージ化された書籍をあたりました。


ミックスの手順やパラメータを書き連ねた本はいくつか存在しますが、その中でもっとも分かりやすく有益だったのがこの本です。

音圧アップのためのDTMミキシング入門講座! (DVD-ROM付)

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なぜその数字になるのかの根拠がとても親切に説明されています。

続刊のこちらも大変Good.

 

最初のうちは本を一からめくり、パラメータをそのままマネしていました。やりながら色々変えたくなるところをガマン。

 

何曲かやるとこの楽器はこれぐらい、という数字を覚えてくるようになります。これがミックスの自由を得るための鍵だったことは大分後になってから気づくこととなりました。

 

2.基準となるコンプを1つだけ決めた

ある時期、気分でコンプを全部RComp(Renaissance Compressor)にしていたところ、その時に2本のトラック同士を耳で比較した時の体感がパラメータ値と一致してビビッとくる、ということがありました。

 

同じコンプをきちんと手に馴染むまで使うべきなのでは?という気付きを得て、それからしばらくはRComp*2だけを使い続けました。

 

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それを繰り返した結果、少しづつ聴覚上の感覚とUI表示のイメージが頭の中で結びついていったのです。*3

 

RCompを選んでいたのもラッキーでした。

これはリダクションのメーターが大変見やすいです。完全にUIデザイナーのメッセージでしょう。まずリダクション量を見よ、という。

目盛りの振り方も気が払われていて、-3dB=軽め、-6dB=しっかり、-12dB=ガツガツという感じ。これは標準コンプの素っ気ないメータやVUメータよりはるかに分かりやすいです。*4

アタック、リリースもリダクションメーターのスピードで視認可能です。これに気付いたのも大きな進歩でした。それまでは例によってなんとなく耳で設定していたので…。

 

色々気づきを得たことで、コンプのパラメータを感覚値として捉えられるようになった感があります。

 

また、他のコンプを使う時にもそれを持ち帰って触ることができるようになりました。

76のレシオがボタン式なのも、ははあ確かにそんなに細かく設定できなくても大体は事足りるな、とか。


3.キックの音量を必ず-10dBと決めた

これは教則本からなのですが、大きな意味があったので書きます。

 

雰囲気でフェーダを上げたり下げたりしていた頃にはメータの数値を読むという概念がありませんでした。ただ音が大きいかそうでもないかが視覚的にわかる、程度のものでした。

 

件の本はまずキックを立ち上げ、その音量と比較するように各楽器のバランスを取っていく手法を取っています。

それを実戦で繰り返すことで、量感は耳で捉えつつ、ある時からメータのピークホールド値を意識するようになり、それによって"この楽器のいつものアウトプット値"が自分の中にできました。

 

これがすごく重要で、今まで雰囲気で上げ下げしていたところに対して、「今数値でどれくらい下がっているのか」とか「メータ上では程よい数字なのになぜ違和感があるのか?」という観点が生まれたのです。

さらに、リダクションメータの動き方とメータの動き方が頭の中でつながり、ダイナミクスが今どれくらいか、コンプをこれぐらいのレシオでかけるとこれぐらいメータの動きが変わるな、みたいなことが分かるようになってきました。

 

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また、メータで大体のイメージが掴めるようになりました。

  • -10dB~-18dBは主役級の楽器
  • -18dB~28dBは脇役
  • -28dB以下は空気感の演出とか
  • もし-10dB超えてたら何か異常がありそう

このようなイメージがあることで、「じゃあヴォーカルが抜けた時の裏メロは-18dBくらいまで突いてもいいな」みたいなことが考えられるようになったり、トラックが大量になった時にも管理がしやすくなりました。

 

ヴォーカルのダイナミクス処理に関しては、最近はこんな感じです。

  1. クリップゲイン*5とVocalRiderで-12dB~-36dB(2目盛り分)の範囲に収まるように整える

  2. コンプで-12dB~-24dB(1目盛り分)あたりに収まるように潰す
  3. コンプのアウトプットゲインを-15dBを目安に調整してから、それより大きめか小さめかを考える
  4. オケに合わせてボリュームエンベロープを書く(後述)

 段階的にトリートメントしていくので、手戻りが少なく良い感じです。

 

4.ボリュームエンベロープを書くようになった

書いていませんでした。というより書けるレベルに達していなかった。

 

だって回りくどくない?
歌が大きいところは大きく歌うのが自然だし、打ち込みもベロシティで音量表現したほうが自然じゃない?
と思っていました。*6自分のかけたコンプでどれくらい圧縮されているのかもよく分かっていないままに…。

ヴォーカルの入りをつくのだけは効果が分かりやすかったのでやっていました。

 

当時はトラックごとのダイナミクスが整理されていなかったので、実際に2~3dB上げ下げしても効果がよく分からなかったのです。

 

それをきちんと整理することで、わずかな変化がきちんと効いてくることを理解するまでに結構な時間をかけたと思います。

 

ひとまず現状は主要楽器(タイコ類、ヴォーカル、ベース)のダイナミクスはしっかり固めて、演出としてボリュームエンベロープ、という作り方に落ち着きました。

ポップスならこれが一つの正解なのかなと。

ファーストオペレーションが最終的な完成度を高めるということもまた気づきでした。
 

現状の再認識


実際、これらすべてを一夜にして閃いたわけではなく、1~2年くらいかけて仮説と検証を繰り返した中での個人的な成果物といえるでしょう。

やっとアウトプットできそうなくらい固まってきたので、区切りを入れるような感じで文字に起こしてみました。

さらに2年後くらいに記事を読み返して「全然分かってねえなあ(笑)」と思えるくらいにはなっていたいですね。

 

ツッコミお待ちしております。

 

*1:※雑誌にもネットにも書いていないけど、プロはみんな最後にこの魔法の粉を一振りするのじゃよ…みたいな話だったら悲しすぎ。DAWが個人向けに流行る前はそうだったのでしょう。

*2:上述の本でも使われていて安心

*3:できる人は一瞬で過ぎ去るステップなのだろうなあ

*4:数字が分かりさえすれば何使ってもいいんですが、ファーストステップとしては。

*5:めんどくさい!

*6:これはどこかで一周回ってこの思想に帰ってきそうな気もしています。